M. S. Ballal,C.R. Walker,A. P. Molloy:The anatomical footprint of the Achilles tendon. THE BONE & JOINT JOURNAL pp.1344-1348.(2014)
November 30, 2020
M. S. Ballal, C. R. Walker, A. P. Molloy : The anatomical footprint of the Achilles tendon. THE BONE & JOINT JOURNAL pp.1344-1348.(2014)
【内容】
新鮮凍結標本12体を用いて、アキレス腱の踵骨付着部の解剖を行いました。さらに防腐処理された10体を用いて後踵骨滑液包について調査しました。腓腹筋内側頭は踵骨結節の下面に停止します。ヒラメ筋は踵骨結節の中面かつ内側に停止します。腓腹筋外側頭は踵骨結節の中面かつ外側に停止します。後踵骨滑液包は、22献体のうち15献体に二区画存在していました。これらの新しい観察は、下腿三頭筋及び後踵骨滑液包の機能を理解する上で必要な知識になります。
【コメント】
本論文は、アキレス腱の踵骨付着部について詳細な解剖研究を行ったものです。
腓腹筋内側頭・腓腹筋外側頭・ヒラメ筋は、近位から遠位へと走行する際にねじれ構造を成しているため、起始部と停止部の配列が異なります。また踵骨結節への停止は一塊ではなく、各facetへと付着します。この構造は棘上筋・棘下筋・小円筋が上腕骨大結節の各facetへと停止する構造と似ています。踵骨結節の圧痛所見の有無を確認する際には、踵骨結節のどのfacetに圧痛を認めるかを詳細に評価し、病態解釈及び運動療法に活かすことが重要です。また、後踵骨滑液包のチャンバー(区画)についても分かれるものと分かれないものとがあることを説明しています。アキレス腱停止部の圧痛所見を得る際には、是非参考にしていただきたい情報です。
フリーダウンロード可能で、詳細な解剖写真と共に記述された論文ですので、是非ご一読ください。
文責:久保田大夢
ACL再建術のハムストリング腱自家移植による伏在神経膝蓋下枝の損傷 斜め切開と垂直切開の比較
November 08, 2020
Injury to the Infrapatellar Branch of the Saphenous Nerve during ACL Reconstruction with Hamstring Tendon Autograft: A Comparison between Oblique and Vertical Incisions Arch Bone Jt Surg2018 Jan; 6(1): 52–56.
ハムストリング腱自家移植による関節鏡視下ACL再建術の際のハムストリング腱採取による伏在神経膝蓋下枝(IPBSN)損傷は、症例の最大86%で報告されている。膝前部の痛み、知覚異常、痛みを伴う神経腫瘍、さらには交感神経性ジストロフィーが発生する可能性がある。これらの合併症は、手術による患者の満足度に影響を与える可能性がある。
IPBSNと鵞足との密接な関係を考慮すると、神経損傷の完全な予防は不可能であるように思われる。膝の内側のIPSBNは、膝前面で遠位外側に約45°の方向に走行している。したがって著者は、神経損傷の可能性はIPBSNと平行して皮膚を切開することで減少する可能性があると考えた。この研究では、IPSBN損傷を垂直切開群と斜めの切開群を比較した。
結果は感覚喪失領域と痺れの訴えの両方で斜め切開群が優位に減少した。
IPSBNは膝の内側で鵞足と親密な位置関係がある。さらに、膝蓋骨の下極から遠位脛骨結節までのIPBSNの横枝には多くのバリエーションがある。したがって、腱を採取するために皮膚を切開すると、神経損傷は避けられない。しかし、神経通路に平行な切開は、神経損傷を少なくする可能性がある。
この研究は、斜めの切開が従来の垂直の切開と比較してIPBSN損傷を大幅に減少させ、患者の不満を減少させる可能性があることを示唆している。
手術による神経損傷に対して理学療法士が手を加えることは出来ないが、皮切と神経の走行の関係を見ると、術後の癒着予防を十分に行わないとIPSBNの症状が出てしまうことがあるのではないかと感じた。
ACL再建術(STG法)の運動療法をする際は気をつけたい。
文責:渡辺将志
超音波画像診断装置を用いた内転筋管の位置について
September 30, 2020
Defining the Location of the Adductor Canal Using Ultrasound
Regional Anesthesia and Pain Medicine 42(2)241-245.2017
臨床上、TKA後の膝痛に対して麻酔科医が内転筋管ブロック(伏在神経ブロック)を実施し鎮痛を図ることがある。内転筋管ブロックを行うランドマークとして上前腸骨棘と膝蓋骨を結んだ中点(以下:大腿中央)に注射することが多い。しかし、実際は大腿三角ブロック(大腿神経内側広筋枝など)をしている可能性がある。そのため、本論文の目的は、超音波診断装置(以下:US)を用いて内転筋管の正確な位置を特定することとした。なお本文献の大腿三角は鼠経靭帯、縫工筋の内側縁、長内転筋の内側縁で構成される三角形を大腿三角としている。
対象は健常人22名である。方法は、はじめに大腿中央の皮膚上にマークした。USを用いて鼠径部レベルの大腿動脈を描出して遠位に追っていき、内転筋管の近位端と遠位端を特定し、皮膚上にマークした。内転筋管の近位端は、縫工筋の内側縁と長内転筋の内側縁が画面上で一致した点とした。遠位端は、大腿動脈が縫工筋から深層にある内転筋裂孔へ入り込む点とした。測定項目は大腿中央から内転筋管の近位端までの距離とした。
結果は、大腿中央から平均4.6㎝遠位に内転筋管の近位端が存在していた。また、遺体解剖を用いた研究においても同様な結果が報告されている。そのため、USにおいて内転筋管を正確な位置を特定することは可能である。また、大腿中央をランドマークにしたブロック注射は、内転筋管ブロックではなく、大腿三角ブロックである可能性が示唆された。
この報告を参考にすると、内転筋管または伏在神経の圧痛所見の精度を高めることができると考える。内転筋管の位置は、大腿中央から平均4.6㎝遠位にあり触診する上で大まかなランドマークになる。それに加え、長内転筋内側縁、縫工筋内側縁の正確な触診技術があれば内転筋管の近位端をより正確に確認できると考える。
そのため、整形外科リハビリテーション学会で大切にしている「正確な触診技術」が改めて重要と感じた。また、USは、触診の正確性を確認するのに必要なツールになるため、ランドマークを参考に描出するとより正確な所見が取れると考える。
文責:敷妙純平
伏在神経膝蓋下枝の走行について
August 28, 2020
松永和剛ら:伏在神経膝蓋下枝の走行について
整形外科と災害外科46: (3) 838~840,1997.
本文献では、大腿遠位内側で内転筋管(Hunter管)を出た膝蓋下枝が皮下に出るまでの走行と縫工筋の関係が調べられた。
下枝の走行を追求できた35肢と切断肢1肢の計36肢を用いた結果、伏在神経膝蓋下枝が縫工筋後縁を回り、筋表面を前方に向かうもの15肢(41.7%)、縫工筋筋腹を貫通して筋表面を前方に走るもの19肢(52.8%)、2本に分岐しレベルを違えて2本共に筋腹を貫通し筋表面を前方に走るもの1肢(2.8%)、2本に分岐し1本は筋腹を貫通し、他は筋後縁を回って筋表面に出るもの1肢(2.8%)であったと報告されている。
この報告から、伏在神経膝蓋下枝の約半数が縫工筋の筋腹を貫通しており、縫工筋の緊張が神経に影響を与えることが示唆された。
伏在神経障害は膝OAやTKA術後、膝関節鏡視下手術後などに生じることが報告されているが、膝内側や前面の疼痛、知覚障害に対し縫工筋による伏在神経膝蓋下枝の絞扼性障害も念頭に置き評価・治療を行う必要があると考えられる。
文責:苅谷賢二
*この文献はJ-Stageにてfreeでダウンロード可能です
股関節前面の関節包の解剖学的特徴について
July 26, 2020
吉田大地ら:外側広筋と股関節前面の関節包との付着について
久留米大学医学部解剖学講座 久留米醫學會雜誌 82(1/2): 26-33, 2019,02
外側広筋の起始は,一般的に大腿骨粗線外側唇・上方は大転子の下部から起始し,共同腱へ移行後膝蓋骨を介して脛骨粗面に停止すると報告されている.
今回の吉田らの報告では, 御遺体20体の内4肢(全体の20%)に外側広筋が股関節の関節包から起始している所見が確認された.
また,外側広筋が関節包へ付着していた群としていない群とに分け,「左右の棘果長・転子果長・大腿長・膝蓋骨直上・膝蓋骨10cm上方の大腿周径」を測定し,関節包に付着していた群の方が,「左右膝蓋骨直上の大腿周径が細く,大腿直筋の起始の面積は狭かった」と報告されていた.吉田らは,大腿直筋の起始部の面積が狭い部位を外側広筋が付着することで股関節伸展機能の補完効果があるのではないかと考察されていた.
この報告から,股関節前面の関節包には大腿直筋・小殿筋だけではなく、約20%の割合で外側広筋が付着するパターンが存在することが分かった.股関節前面の関節包に付着することから股関節炎患者や,人工股関節全置換術患者(特に前方アプローチ法)に対し考慮すべき筋であると考える.また, 外側広筋について大腿二頭筋や腸脛靭帯との筋間等の大腿後外側へのアプローチは多く紹介されているが,前方関節包への配慮も必要であると考える.
文責:舘英里
坐骨神経から分岐する筋枝の解剖学的な特徴について
June 01, 2020
深澤幹典ら:ヒト下肢の「ねじれ」についての肉眼解剖学的考察―坐骨神経から大腿屈筋への筋枝の特徴が示すこと― .第10回臨床解剖研究会記録.22-23,2006
坐骨神経は人体最大の神経であり膝の下方へと走行している。大腿の屈筋群へ筋枝を送っており、その分岐形態は多様だと報告されている。
今回の深澤らの報告では29体46側の御遺体について坐骨神経とそこから分岐する筋枝について起始、走行、分布が詳細に観察された。
そして、人の下肢は発生段階で内旋(ねじれ)を生じており坐骨神経の総腓骨神経成分、脛骨神経成分からの筋枝は近位から遠位に向かって内旋方向に変化する形態形成的特徴があり、ヒト下肢の発生段階におけるねじれを投影していると考察されていた。
この報告から坐骨神経の総腓骨神経成分と脛骨神経成分から分岐する筋枝は内旋の方向へ分岐していることが理解できた。神経の詳細な走行を知ることは超音波画像にて神経を確認する際にも活用することができる。
また神経の走行や筋枝への分岐部、分岐する方向などの特徴を知ることは理学療法における関節操作に活用することもできる。最近では末梢神経の走行に沿ったハイドロリリースなどが行われることが臨床的にも多くなっている。神経の走行を理解することは我々が理学療法を行う上でも重要だと思われる。
文責:永田敏貢
May 13, 2020
これからこのページにスポ支部スタッフが読んだ文献を紹介していきます!