top of page

パネルディスカッションⅡ
Master Therapistからのメッセージ 
治療・評価の創意工夫とオリジナリティー

小野 志操

運動器機能医科学インスティチュート 

なか整形外科

 

『股関節疾患に対する理学療法で大切なこと〜不易流行〜』

「不易流行」とは、松尾芭蕉が示した俳諧の理念だそうです。いつまでも変わらないことを指す「不易」と、時代に応じて変化することを示す「流行」という相反する概念がひとつになった言葉です。つまり、新しさを求めて常に変化を求めていくと、いつまでも不変の本質的なこと見えてくるという意味です。我々医療従事者は常に新しい知識や治療法を追い求め、臨床での経験や研究を積み重ねていかなければなりません。しかし、医療の世界がどれだけ変化しようとも、「時代を超えて変わらない価値のあるもの」(不易)があります。股関節疾患に対する理学療法においても同じことが言えると考えています。特に我々が臨床でよく遭遇する、鼠径部痛とも称される股関節前部痛の理学所見の一つにAnterior Impingement Test(AI)があります。このAIは一体何を私たちに教えてくれるのでしょうか?ここ数年で、解剖や超音波画像を用いた研究など、股関節前部痛を解釈するために必要な情報が多く出てきています。ところが実際に私が行なっている理学療法は10年前と大きく変化はしていません。むしろ新しい情報は10年前から行なっている理学療法を支持してくれるものとなっています。今回は股関節前部痛を解決するために私が何を、どう、考え、理学療法を実践しているのかについてお話させて頂いた上で、皆さまとディスカッション出来ればと考えています。

中宿 伸哉

吉田整形外科

 

『仙腸関節へのアプローチ

〜仙腸関節の関節面を考慮した徒手的操作の一工夫〜』

仙腸関節性疼痛の捉え方として、大きく不安定性と拘縮性に分けている。不安定性では原則ベルトにて仙腸関節の固定を行い、仙腸関節への直接的な治療は行わず隣接関節等のアライメント調整を行う。拘縮性では、後方の靭帯組織に加わる機械

的刺激に伴う疼痛と捉え、隣接関節等のアライメント調整に加え、仙骨のnutation、counter nutationを主体とした徒手的治療を行う。仙腸関節は平面関節と言われているが、実際はプロペラ形状のような捩れ構造を呈している。関節面はS1、S2レベルでは外方へ、S3レベルでは内方へ向いているが、症例によってバリエーションも多い。捻れが強い症例に対して、仙腸関節の頭側、尾側の関節面に合わせて、それぞれ単純にnutation、counter nutationを行うと、他方の関節面は開大するストレスへと変換されるため、結果的に仙腸関節の動きが誘発されにくいと考えている。したがって、関節面にできる限り逆らうことなく動かすためには、その向きや形状を単純X線やCT、MRIを確認しながら仙骨に加える負荷の方向を決定する必要がある。本報告では、これらの具体的な方法を提示する。

 

福吉 正樹

名古屋スポーツクリニック

 

『末梢神経を基軸とした新たな治療

 -末梢神経周辺組織に対する超音波ガイド下

  圧変動操作の生理学的根拠と成果に迫る-』

 常識とはあくまでも通念的な認識に過ぎず,変化し得るものである.本邦における理学療法の歴史を振り返ると,時代に関係なく対象障害の最上位に位置するのは,常に「可動域制限」と「筋力低下」の項目である.つまり,理学療法を遂行するうえでは最も改善すべき機能障害であり,これが理学療法士の共通認識と言えるであろう.実際,痛みを呈する症例に向き合うことの多い運動器理学療法では,上記の機能障害と痛みとの関係性を機能解剖学的側面から解釈し,これに対処することで治療効果を発揮してきた事実がある.しかし,近年になって医師の末梢神経に対するハイドロリリース(以下,ハイドロリリース)が痛みの改善だけでなく,可動域や筋出力の改善にも有効であることが報告されるようになり,病態解釈ならびに運動器理学療法の在り方を再考する契機となった.まさに,これまでの常識をアップデートする必要に迫られたのである.

 ハイドロリリースでは,神経に伴走する血管の拍動が亢進する現象が認められる.また,この現象を徒手にて再現するべく考案された手技が,末梢神経周辺組織に対する超音波ガイド下圧変動操作であり,これによってハイドロリリースと類似した臨床効果が得られることがわかってきた.末梢神経に伴走する血管の拍動亢進は何を示唆しているのか? そして,なぜ各症状が改善するのか? 本発表では,これらの点についての生理学的根拠に迫ってみたい.

松本 正知  

桑名市総合医療センター 

早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科

 

『皮下組織の滑走性定量化の試みと臨床への応用

         〜橈骨遠位端骨折を例として〜』

いまさらですが、橈骨遠位端骨折後の運動療法時に手背から前腕にかけての皮下組織の「硬さ」や「滑走性の低下」が残存することを再認識しました。

「拘縮には起こる順番があります。その逆から治療を考えなさい」、恩師である整形外科医から教えて頂いた骨折後や拘縮に対する運動療法の考え方です。そして、早稲田大学大学院に在学中に、運動療法においてfasciaを考慮する重要性をもう1人の恩師から学びました。筋、神経、脈管系、内蔵など、それらはfasciaと共にあります。アプローチしないわけには参りません。これらをみなさまの前でお話しさせていただいていたのに、しっかりできていなかったことに

反省です... 

先ずは、その点についてお話しさせていただきたいと思います。

そして、反省から新たな発想が生まれることがあります。良質な医療を提供するためには「根拠に基づく医療」が重要とされています。定量化はその礎となるかもしれません。「硬さ」は、elastographyを使用すれば定量化できる可能性があります。 しかし、「皮下組織のみを対象とした滑走性」の定量化は報告されていないようです。そこで、その点についてお話させて頂きます。

bottom of page